以前、四十代後半の奥さんがお参りに来られました。二人姉妹の妹さんで、お姉さんは夫と離婚後に再婚し、現在は海外で生活しており、日本には戻ってきません。 お姉さんには前の夫との一人息子がいますが、海外へは同行せず日本で就職しました。しかし次第に生活が乱れ、落ち着かず、この妹さんに何度もお金を借りに来るようになりました。今では行方不明になっています。
姉妹のご両親は、お父さんが若くして亡くなり、お母さんは長年病弱でした。父方の伯父さんから土地を借りて小さな家を建て、そこで暮らしていましたが、そのお母さんも三年前に亡くなりました。三回忌を過ぎ、家を取り壊すことになり、問題となったのがご両親のお位牌と小さなお仏壇でした。姉は海外、息子は行方不明、自分も嫁いでいるため、これまでは伯父さんに時々仏壇を見てもらっていたのです。
妹であるこの奥さんは、夫や嫁ぎ先のご両親に申し訳なく思いながらも、「せめてお位牌だけは自分で預かりたい」と考え、菩提寺に古い仏壇の扱いを相談しました。お寺からは「お仏壇は仏壇屋で納めてもらい、お位牌は嫁ぎ先の仏壇に入れるのは好ましくない。永代供養にしたらよい」と勧められました。しかし納得できず、知人を通じてご相談に来られたのです。
「お母さんも不憫でしたね。住んでいた家もなくなり、お仏壇までなくなれば帰るところがなくなってしまうよですね。ご主人に相談して、しばらくの間ご自宅で仏壇をお祀りさせてもらってはいかがでしょうか。古くなったお仏壇を一生懸命掃除して、真心を込めて磨いて、ご両親とゆっくり会話されたらいいですよ」 「お母さんがどうしてもらったら一番喜ぶか、お母さんになったつもりで考えてみてください・・・」
嫁ぎ先のご両親もこの話を快く受け入れてくれました。古く小さな、真っ黒に汚れているお仏壇を、今まで粗末にしていたことを詫びながら、お母さんの病弱で、どれほど苦労してきたことなど想いながら、精一杯磨きました。お花やご飯、果物や水を供え、自分なりにご供養をしていたのです。
一ヶ月ほどして、再び奥さんがお寺にお越しになり、開口一番「出たんですよ!」「えっ、何が出たんですか?」というやりとりがありました。落ち着いてお話を伺いますと、三週間ほど経った頃に夢を見たというのです。それは七分丈の花柄ズボンをはいたお母さんの姿でした。幼い頃から笑顔どころか、病弱で苦しそうな顔しか見たことがなかったのに、その夢の中では「満面の笑み」でニコニコと微笑んでいたのです。驚いて飛び起きると、そこには懐かしいお母さんの匂いと、確かな温もりを感じたといいます。心の底から「良かった」「お母さんが喜んでくれたんだ」と涙があふれたそうです。
それから数日後、さらに驚く出来事が起こりました。長らく行方不明だった姉の息子から、現金の入った封筒が届いたのです。そこには「元気にしております。お借りしたお金を少しですがお返しします。」と書かれていました。まるでお母さんが知らせてくれたかのように感じ、奥さんは改めてご供養に訪れたのでした。